山あいの渓谷では、ひと足早く紅葉が始まる。
そんな季節になると、私は秋の休日に紅葉に燃える渓谷に出かける。
清流がせせらぐ渓谷と、色彩豊かな紅葉とのコントラストを楽しみたくなるからだ。
「ねえ、今度のお休みに紅葉を見に行こうよ、天気も良さそうだし」
私は仲良しの真奈美に言った。
「いいよ、純子がいつも行ってるところでしょ。何回も話に聞いてるから、私も一回行ってみたかったの」
真奈美はとても嬉しそうな笑顔で、私の提案に応えてくれた。
そして週末には、私たち二人はトロッコ列車に揺られながら、朱色に染まった渓谷の秋景色を思いきり満喫していた。
トロッコ列車はゆったりと走り、途中の紅葉スポットではしばらく停車してくれる。
目に映るすべての景色がとても色鮮やかで、それでいて変化に富んでいて、爽快な秋を感じることができた。
終点の駅について列車を降りると、真奈美は言った。
「ねえ、紅葉をバックに写真を撮ろうよ。誰かに頼んで二人一緒に写してもらおう」
私は誰かいないかと周りを見渡したが、ふと見ると紅葉の景色に向かってシャッターを切っている一人の男性がいた。
「あの人がいいんじゃない、なんか写真撮るのが上手そうだから。私が頼んでみるわ」
そう言って、私はその男性のところに行った。
彼は私の話を聞いてくれて、写真を撮ることを快く引き受けてくれた。
彼は私たちの写真を撮り終えた後で、「僕のカメラでもおふたりの写真を撮らせてもらえませんか?」と言った。
彼はアマチュアカメラマンで、この渓谷にはよく写真を撮りに来ている、ということだった。
私たちも彼の依頼に快く応えた。そして近くの温泉宿で郷土料理を楽しんでから、秋の渓谷をあとにした。
数日後、私の元に彼からあの時の写真が送られてきた。
私と真奈美の二人が写っているのはもちろん、彼が写した渓谷の秋景色の写真も数枚同封されていた。
その写真には、実際に見て感じたものとは違う、紅く彩られた渓谷美が鮮やかに写し出されていた。
そして一年後……。
「ねえ、今年もまたあの渓谷に紅葉を見に行こうよ」
真奈美は私に言ったが、私は、「ごめん、今年はちょっと忙しくて行けないのよ」と断った。
真奈美にはそう言ったが、今年私は、あのカメラマンの彼と一緒に紅葉を見に行くことになっている。
どうやら今年もまた、私は渓谷の紅葉列車を楽しめそうだ。
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